第三話 仲間たち
〜ガルマ散る〜



 ガーダーと総称される自動防衛用砲台に四方を守られた前線基地、通称ガチャベースに一行は到着した。弾薬や食料の搬入、エネルギーの補給など、乗組員はここでも忙しく働いていた。
 そんな中、マーク艦長とエリスの二人は新たな人員と会っていた。
「ユリウス・フォン・ギュンター技術大佐です。こちらはシス・ミットヴィル少尉。“フェニックス”のパイロットに予定されています」
 連邦の制服を着た少年は、生真面目そうに敬礼した。紹介された少女は無表情なまま返事もしない。感情というものが欠如したような、機械を思わせるたたずまいだった。
「カチュア・リィスだよ。よろしくね」
 ピンクの髪の少女は、新しい友達に挨拶するように笑いかけた。
「彼女は“ギガンティス”のパイロットになる予定です」
 ユリウスが付け加える。
「自分はミンミ・スミス伍長であります!部隊の勝利のために粉骨砕身努力の限りを尽くす所存であります!」
 モビルスーツと言うより飛行機のパイロットのような格好をした少女は、生真面目そうに直立不動の姿勢で体を硬直させた。
「……子供たちばかりじゃない!どうなっているんですか!」
 エリスは、彼らを連れてきたゼノン・ティーゲル少将に非難の視線を向けた。
「厳密な選考の結果、合格したのが彼らだった。年齢は関係ない」
「そうですよ」
 ゼノンの固い声に続いて、ユリウスが自信に満ちた表情を見せる。
「子供だからって、甘く見ないでほしいですね」
 エリスの態度とは裏腹に、マークはユリウスと握手を交わした。
「論文は読ませてもらったよ。頼りにさせてもらう」
「マークまで!」
「ギュンター技術大佐がこれまでに果たした役割は大きかった。歴史上欠陥のあった装置や兵器を問題なく機能できるようにし、各種ガーダーやハロ、サイコロガンダムの設計も彼が……、」
「サイコロガンダムは違いますよ。昔、簡単な設計図があったから、遊びで完成形にしただけです。……ジオングに足をつけるようなものですよ」
 その口調は、才気闊達で少し生意気な少年そのものだ。しかし成果はそうではない。彼が遊びで作ったものは、αアジールやラフレシアを超える宇宙最強のモビルアーマーだったのだ。それゆえに、この11歳の少年はマークと同じ大佐の地位にいる。
「カチュア少尉とシス少尉は、かつての君たちと同じくらいの才能を秘めている。心配など必要ない」
 ゼノンは言葉どおりの口調で言い切った。
 確かに、今度の補充兵の一件はかつて一線で戦いぬいた者達を休ませるための処置だった。マークのクィン・マンサ、エリスのノイエ・ジールU、そしてEx−Sガンダムのラナロウ・シェイドとHiνガンダムのジュナス・リアムは超人的な活躍で戦いを勝利に導いた。しかし彼らは、極度に上昇したニュータイプ能力のためにエンジェル・ハイロウ攻防戦で飽和してしまい、現在は二つの艦に分かれて、艦長やオペレーターなどブリッジクルーに回っている。
 だが、エリスが言いたいのは、補充兵の必要性でも彼らの戦闘能力でもなかった。
「これじゃ……なんのためにショウ君を艦から下ろすのか……」
「そう言えば、時代はどうなっているのです?ホワイトベースに行くはずだった難民の子を保護しているのですが」
 マークがゼノンに話を切り出したが、その結果は思わしくなかった。
「それは、まずいな……。すでにホワイトベースから難民たちは出ていったあとだ」
「それでは……」
「いまさら戻れませんよ。ア・バオア・クー攻防戦までは直行なんですから。……まったく、イレギュラーなことは止めてほしいですね」
 ユリウスが不可能と言うのなら、誰もそれを覆すことはできない。マークは重い現実をショウに伝えざるを得なかった。

「紹介しよう。彼らが新しいパイロットだ」
 ブリッジに集められた乗組員たちは、その子供達を見てやはり戸惑っていた。
「どういうことなんですか、艦長」
 最初に口を開いたのはレイチェルだった。
「どうして新しい強化人間なんか……!私とシェイドがいて、何が不満なんですか!」
 それに答えたのはマークではなくユリウスだった。
「今回行くことになる新しい時代には、ゼロシステムやバーサーカーシステムなど、これまでのサイコミュとは全く違うシステムが存在するんです。それに対応できる人材は絶対に必要なんですよ」
「そんなことで……また機械の一部にされる人を増やして!」
「レイチェル、これは本部の決定事項だ。我々が何を言っても仕方がない」
「艦長!!」
「その話は終わりだ。……ショウ、君にも悪い知らせがある。向こうの艦の難民はすでに開放されてしまったようだ」
「えっ……?じゃあ、お母さんは?」
「連絡を取ってみたが、無事にホワイトベースから出たということまでは確認された。それ以降は軍の管轄下にはない」
「分からないんですか?」
「……。大丈夫だ。必ず会えるさ。戦争が終わったらな……」
 マークは慰めるように、ショウの肩に手を置いた。
「もうパイロットをしなくてもいい。これまでご苦労だったな」
「いえ……。この艦にいるなら、僕も何かしたいです」
 うつむいたショウの下から飛び上がるように、カチュアがにゅっと割り込んできた。
「だーいじょうぶ!私がやってあげるよ」
「えっ?」
「私は強いんだから。……ふーん」
 カチュアは匂いを嗅ぎ回るように、ショウの身体のあちこちに顔を寄せた。
「キミもニュータイプなのね。私にはなんでもお見通しなんだから」
 カチュアはにこっと笑った。
「私、カチュア・リィスって言うの」
「僕……ショウ・ルスカ」
「ショウ、ね。よろしくね」
 二人の様子を見て、ユリウスが苦い顔をしていたのをクレアは見逃さなかった。

 前回死闘の末に手に入れたガザBと高機動型ザクは倉庫に入れられ、モビルスーツデッキには新しいガンダムが二つ加わっていた。
「あっはははははっ!な、なにこれ〜!ガンダムドクロベー?」
 クレアはそのうちの一体、骸骨をモチーフにしたガンダムを見て、腹を抱えて笑い転げていた。凶悪なデザインのはずなのだが、どこかユーモラスである。
「スカルガンダムって言うらしいよ。お待ちかねのモビルトレースシステム」
「ほほう。えーっと、スペックはどう?おっ、ガンダムより強いじゃん。武器は……毒液で相手を溶かす、なぜか宇宙でも発射可能な火炎放射器……あーっはっはっは!イカすよこれー!私これにするー!」
「成長はしないみたいだよ。設計素材になるかもしれないから取っとくけど。もうひとつのは、作業用モビルスーツを改造したみたい」
「げ、またぁ?」
「名前はDガンダム・ファースト。機体性能自体はよくないけど、この時代なら十分戦えるよ。有線爆弾が強力ね」
「ファーストってことは、鍛えればセカンドになるんだよね。艦長、どうするの?」
『そうだな……。育てるべき機体は少ないな。今回はギュンター技術大佐たちの実戦テストでいいだろう。技術大佐とシスはガンダム、ミンミはブッシ。後はトルネードガンダムで待機だ』
『敵はドップばかりで、捕獲対象もいないですからね。そんなところでしょう』

 モビルスーツ隊が出撃していき、戦闘が始まった。戦局はユリウスの指摘どおり、危険に陥ることもなく押していた。
「やるじゃん、あいつら。選ばれただけはあるんだねー」
「でも……。こんなの間違ってるわよ」
「そだね。アレは……ちょっと異常だね」
「ちょっとどころじゃないわ!」
 スピーカーからは、クレアとレイチェルの会話が聞こえてくる。だがショウはそれに割り込むどころではなかった。コックピットの中に、機体を割り当てられなかったカチュアが忍び込んで来ていたのだ。
「……ったくもう。気にすることなんかないのに。パイロットなんてみんなおんなじなんだから。ねえ」
「そ、そうかな……」
「そうよ。それよりさぁ、こうしてると気分よくない?」
 カチュアはショウに抱きついて、眠るように目を閉じた。
「えっ?そ、その……」
 ショウは顔を赤くしたが、カチュアは目を閉じているので分からない。
「私たち、分かりあえるんだよ。ニュータイプだもん」
「そうなの?」
「そうだよ、きっと。私ショウのこと気に入っちゃった」
 積極的なアプローチに対応できずに困っていたとき、モビルスーツ隊が帰ってきた。艦内に通信が入る。
『ガルマ・ザビ大佐のガウ、ホワイトベースに撃墜されました』
『敵の残りは?』
『シャア専用ザク、撤退した模様です。量産型ザクが2機残っています。ドップ部隊は正面に残り3機、加えてガウの周りにいた6機が残っています』
『そうか……ではまずザクを撃破に向かう。それまでにモビルスーツの補給を終わらせるように』
 艦に向かってくるドップ2機は反撃のミサイルであっさり撃墜された。無視された最後の1機はガチャベースに向かうが、それを守るツヴァイト・ガーダーには歯が立たないだろう。
「ねえ……私たちも行こうよ」
「えっ?今日は見てるだけだって……」
「いいじゃない。ショウがやらないんなら、私がやっちゃうから」
 カチュアはショウのひざの上に座ると、いきなりトルネードガンダムを勝手に発進させてしまった。移動力不足を補うためにメガブースターを追加装備しているトルネードガンダムは、止める間もなく2機のザクに接近した。突然シャアに一人で撤退されてしまい、置き去りにされたザクは仕方なくアムロに挑んだが、ハイパーハンマーの一撃であっけなく片方が吹き飛んだ。そこにトルネードガンダムが突っ込んできたのである。
「よそ見してるね?いっただきィ!」
 カチュアは機嫌よく拡散ビーム砲を撃ち込んだ。先にアムロのビームライフルで傷ついていたザクは、これまたあっけなく爆発する。
「楽勝楽勝ぉ!どんな相手だって私にお任せよ★」
 パチッと指を鳴らして、カチュアはショウに振り返った。ショウは慌てて操縦桿を取り返し、機体の制御を取り直した。
「カチュアちゃん!ちゃんと前見て!」
「あ、いっけない」
 えへっ、と舌を出して笑うカチュアとは対照的に、ショウは冷や汗が止まらなかった。もう少しで地面に突入して二人とも死んでしまうところだったのだ。
『ショウ!何をやってるんだ!……なんでカチュアが乗ってるんだ!?』
 マークの怒鳴り声がコックピットに響いたが、ショウは言葉を返す気力もなくなっていた。

 無事戦闘は終わった。しかもほとんど無傷の戦いだった……が、帰艦したショウは冷たい視線に囲まれた。
「あうう……ご、こめんなさい……」
「ショウは悪くないんだモン!私が勝手に……」
「とにかく、二人ともしばらく反省房に入っているんだ。……クレア、連れていけ」
「なんで私?」
「一番あそこに慣れ親しんでるのはおまえだろう」
「……ひ、ひどい……」
 私が一番ガンダムを動かせるんだ、などと愚痴をたれながらクレアはショウとカチュアを連れてブリッジから出ていった。それを見届けた後、マークは大きくため息をついた。
「これから大変になりそうだな。エリス……あの子達の世話を頼むぞ」
「そうですね……」

 ショウがカチュアと別れ別れで独房に入れられて、どうしてこんな目にあうのか理解に苦しんでいると、扉の窓に人の頭が見えた。大人なら顔が見える高さだが、銀色の髪の毛までしかその高さに届かない。
「……おい」
 不機嫌そうな少年の声が聞こえてきた。
「カチュアちゃんと何があったんだよ」
「ユリウス?」
「クレア中尉から聞いたぞ、コックピットの中で抱きあってたって!」
「抱き合ってなんかないよ。カチュアちゃんの方が抱きついてきただけで……」
「なんだって!?」
 ショウの言い訳は、相手をさらに怒らせただけだった。
「ニュータイプかなんだか知らないけど……お前なんかにカチュアちゃんは渡さないからな!」
 いらついた足音が遠ざかっていく。
「クレアさん……ユリウスになんて言ったんだろ……」
 これからどうなっちゃうんだろうと考えながら、ショウは退屈な時間をすごし始めた。


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