第二十四話 砂漠の思い出
〜燃える地球〜



 地球に降下したアルビオンでは新たな機体がパイロットたちの視線を一身に集めていた。
「できちゃったねぇ……」
 クレアはひとすじの汗を流しつつ、乾いた笑いを浮かべている。
「まあ、以前作ったデータがありますから、比較的早めに出来ても不思議はないんですけど……」
 ユリウスもどうしたものか思案にくれていた。このモビルアーマーを以前に設計したのはユリウス自身だというのに。
「これに……乗るの?」
 シスは今まで乗りつづけたサイコガンダムの変わり果てた姿を見てつぶやいた。悪魔のマシンと呼ばれようと、今まで生死を共にしてきた愛機だったのだ。いくらなんでもこの格好はひどすぎる。
「かっこわる〜い」
 正直な感想を述べたカチュアに、デザインは僕ではありませんとユリウスが弁明する。
 その感想も無理はないだろう。サイコガンダムの頭部の下には巨大な立方体だけが据えられ、びっくり箱のようでもある。およそ戦闘用に作られた機体とは思えない。
「これ……なんですか?」
 ショウの質問に、ケイから答えが帰ってきた。宇宙最強のモビルアーマー、その名はサイコロガンダム!
 前面にはサイコガンダムの倍以上の威力を持った拡散メガ粒子砲、背後からは戦艦に装備される6連装の大型ミサイル。Iフィールドの障壁に阻まれ、生半可なビームはものともしない。
 これさえあれば新たにモビルスーツの開発などをする必要はなく、量産化すれば敵が気の毒になるほど一方的な戦いになる事は確実である。しかし……
「まあ、これは見なかった事にしてと」
 満場一致で封印に決定し、モビルスーツデッキの隅にある大型コンテナの横に邪魔にならないように片付けられる。今回の改装はこれだけではないのだ。
 宇宙用のジャムル・フィンは大気圏を飛行可能なゾディ・アック量産型になっていた。戦局を見ながら後方から強大な援護射撃をするというユリウスの役割は変わらない。ミンミの百式改は宇宙でしか使う事のできないメガバズーカランチャーを外して陸戦用に改装されていた。
 サザビーは赤いヤクト・ドーガになっていた。戦闘力は低下しているが、開発のためにさらに様々な機体に生まれ変わっていく予定である。
 総じて、あまり戦闘力が上昇しているとは言い難い。さらにサイコロを封印するという事は、今まで部隊の半分を一機で受け持っていたシスのサイコガンダムがいなくなってしまうという事なのである。
 そのため、残った二機には大きな期待が寄せられた。サイコロガンダムは四角だが、クレアの機体は三角になっていた。
「Hiνがガンダムの頂点だと思ってたなぁ……。あれに続きがあるとは思わなかったよ。なんて読むの、この字?」
「クスィー、だって。ミノフスキークラフトで空が飛べるよ。普通のモビルアーマーよりずっとスピードが出せるよ〜」
「高速一撃離脱型かなぁ……」
 クレアは敵の弾幕を回避できる安全圏から、次の瞬間には接敵してビームサーベルで斬りつけることを考えた。しかし、後年登場するV2ガンダムですらそんな事は不可能なのだ。
「まぁ……試してみようかな」
 クレアは座りこんで、いろいろと頭をひねっていった。何も考えていないときが多いが、趣味に関してはマニアックである。
 残ったショウのZZは、また新しい姿のガンダムになっていた。頭部のハイメガキャノンがなくなり無骨なイメージが消えている。
「こいつはスペリオル・ガンダムだよ。サイコミュは初めてだよね?」
「はい……まだ、そういうのは使った事ないです」
「初めての子に使えるかなぁ、こいつ……」
 ALICEとの相性はいいんじゃないでしょうか、とユリウスが口を挟んだ。
「誰なの?アリスって?」
「……まあ、君にも分かるように、ごく簡潔にまとめますと……。……コンピュータですね」
 時間をかけて言葉を選んだユリウスに馬鹿にされたように感じて、ショウはムッとした。ケイがなだめるように、戦闘を通して成長する進化型AIなのだと説明する。
「そのAIと二人三脚になるし、いきなりそういうのがついてると難しいかもしれないから……」
「クスィーはあげないよ〜」
 ぶつぶつ独り言をしながら下を向いていたのに、すかさずフォローを入れるクレア。
「いろいろ試したい事があるからねっ。実戦の前に……いや、実戦でしないと……うーん……」
 思考に没頭しているのかこちらの話を聞いているのか分からないクレアは、独り言を続けながらモビルスーツデッキを後にした。

「今度の作戦は、ネオ・ジオンに制圧されたダカールを取り戻すことだ。
 アーガマやカラバの主力部隊は南から攻める。ガンダムチームが砂漠を越えて北から潜入し、背後から牽制する。我々は本隊と共に正面から強襲することになる」
「……サイコロ使う?」
「いや、そんな予定はない。クスィーやSガンダムがいれば戦力的には十分だ。むしろガンダムチームの方が足りないぐらいだぞ?」
 そう告げられたクレアは、彼女には珍しい真面目な口調で言った。
「私、ガンダムチームの方に行こうか?ちょっと試したい事があるの」
「何をするんだ?」
「超高速一撃離脱必殺剣……かなぁ?
 ミサイル発射して、そのミサイルと同じスピードでモビルスーツが突っ込んでったら回避できると思う?」
「無理だ、そんなのは」
 即答したマークに、クレアは指を鳴らして笑顔で返答した。
「オッケー!艦長に言ってもらえるんなら完璧だねっ♪じゃ、シャアと戦うまでには完成させてみせるからっ!」
 言うが早いか、クレアはモビルスーツデッキに駆けていく。
「お、おい待てっ、クレア!」
「プルプルプルプルプルプル〜〜っ♪」
 もはや話は通じないだろうと予感させる嬌声を残して、クレアはものすごい速さで遠ざかっていく。
 ミサイルと同じスピードで突撃する機体が斬り合いなど不可能であって、下手をすれば敵機に衝突して自殺するだけだと言おうとしたマークは一度浮かせた腰を椅子に深く埋めた。
『クレア・ヒースロー、クスィーガンダム、いってきまぁ〜す!』
 大空に向かって気持ち良さそうに飛び出すミノフスキークラフトの機体は、不安でいっぱいの視線に見送られて行った。

「やっほ〜!ルー!私も行くよ〜!」
「クレア?また新しいガンダムぅ?」
「いいでしょ〜?モビルスーツのまま空が飛べるんだよ〜!」
「どんな機体なのそれ〜!?」
 クレアがオーバースペックの機体をいろいろと自慢する隣で、エルピー・プルが本来の笑顔ではしゃいでいた。
「ショウも新しいガンダムなんだ!これでジュドーと間違えないね〜」
「う、うん……」
 なんでクレアさんについていくのが僕なんだろう?そりゃ、機体に慣れないといけないっていうのは分かるけど。でも、プルちゃんが元に戻ってくれたのはよかったなぁ……。
 小さな声でつぶやいていると、どこからか声が聞こえた気がした。
(プル……戻ッタ…… 嬉シイ……)
「え?」
 ショウはあたりをきょろきょろと見てみたが、もちろんコックピットには彼一人しかいない。
「なんか最近、こういうのばっかりだなぁ……?」
(最近…… オカシナ事…… デモ、楽シイ時代……)
 不思議な声はショウの言葉に反応し、少しずつ何かを感じていくようだった。

 ガンダムチームの苦労は戦闘ではなく、何事もない移動に費やされていた。
「こらっ、プル!出てきなさい!」
「いい子だから、ね?プル!」
 もちろん、騒動の種は彼女である。砂漠で最も貴重な水を豪勢に浪費して、小さなプールのようなお風呂で上機嫌になっていた。
「プルちゃ〜ん、ダメだよぉ、そんなことしてちゃ〜?」
 ばっしゃぁぁぁん!
 暑さで苛立っているエルやルーと一緒にプルを止めようとしたショウだったが、いきなり顔に水を浴びせられてしまった。
「エッチ〜!見ないでよ〜!」
「もう、そんなんじゃなくてぇ〜」
 ショウはこの場にカチュアがいなくてよかったと心の底から思った。
 怒ってもなだめても全く聞こうとしないプルに向いていた矛先は、今度は保護者であるジュドーに向けられた。
「ジュドー!あんたが甘やかすからっ!」
「オアシスを探してくる。それでいいだろう?」
 さすがにジュドーは、言って聞かせたところでプルは反省しないと骨身に知らされていた。
 ZZガンダムは飛び立とうとしたが、そのときセンサーに異常を発見した。
「何だ!囲まれたっ!?」
「ショウ、プルと左側3機頼むよ!ルー、私と右側行くよ!ジュドーたちは正面だけ見てればいいから!」
 クレアは不気味なほど静かに戦場を見ていた。その声につられて飛び出したかのように、左右から3機ずつの敵が襲ってくる。
「ちょっともうっ、なんでこんな時にっ!?」
 エルとルーは急いで自分の機体に飛び乗った。それを見守るクレアは、まだルーのZには敵弾が届かない距離であることを確認していた。
「さて……問題は私にララァと同じ素養があるかどうかだ……」
 ミノフスキークラフトを解放して、クスィーガンダムは空に飛びあがる。敵の目を引いている間にZが駆けつけ、ハイパーメガランチャーを撃ちこんでいく。
 あっけないほどに脆く、ジオンのモビルスーツは吹き飛んでいく。8年前の……クレアのクスィーから見れば20年以上も旧式の機体である。一瞬の驚愕がすぎれば両者の力の差は歴然としていた。
 両手からファンネルミサイルが飛び出し、どんな正確な誘導装置よりも的確に命中していく。それを追いかけるように、クレアはミノフスキークラフトを全開にして突撃した。
 大気がミノフスキー粒子のフィールドと削り合い、美しい虹のような光を残していく。狙われたディザート・ザクは連装ロケット弾を撃ち返す。
 そのうちの一発が命中し、大きく角度を変えてクスィーはあらぬ方向に飛んでいってしまう。
「……あれ?避けたつもりだったのにおかしいなぁ……」
 機体が大きいのが悪いんだとクレアは気付いた。V2ガンダムと同じ速さでも、モビルスーツとしてはかなりの大型機である。運動性はそのぶん劣っているはずだ。
 その代わり、ロケット弾でもほとんど損傷はしていない。耐弾性はHiνガンダムをも凌いでいるようだった。
「運動性を捨てて加速力に全てを賭けてみようか。そして……」
 加速を落とさずに、大きく弧を描いて元の位置へと戻っていく。ディザート・ザクはまだ振り向いてもいない。
「神の世界への引導を渡してくれるーッ!」
 ちょうど振り向いた機体の胸にビームサーベルが吸い込まれる。爆発が起こるより前に、クスィーはその場を離れて飛び立っていく。
 爆発の轟音をバックに、クレアはミサイルに追いつく事ができるブースターの設計を本気で考え始めていた。

 クレアが必殺技を開眼しているころ、ショウは敵の気合いに押されていた。
「ザ、ザク……?ゲルググ?こ、こんなので何するんだよ!?」
(ザク…… ゲルググ…… 弱イ……死ヌダケ、ヨクナイ……)
 コンピュータが追認する言葉の通りだと思った。
 オーバーテクノロジーには慣れていたショウも、彼らとはとても戦う気にならなかった。
 勝負になどなるはずがない。相手はただ殺されるために来ているようなものだ。
「我らは8年間待ちつづけたのだ!貴様らと戦うことをな!」
「だからって、無茶だよこんなの!」
 打ち出される弾を避けながら、ショウは彼らが哀れに思えた。
 こんな機体で、砂漠で8年間も夢を信じつづけて。
 しかし……彼らの努力が報われ、夢が叶えられたとしたら、その犠牲になっていく人々はどうなるのだろう?
 そのことが一番悲しかった。いつからスペースノイドの独立の夢は、こうも汚れてしまったのだろう?いまだその夢を信じて生き続ける人はいるというのに……。
「どうしたらいいんだよっ!」
 攻撃を避けつづけるショウの横から、キュベレイの放ったビームがザクやゲルググを貫いていく。8年間の代償としてはあまりにあっけなく、ジオンのモビルスーツは砕け散っていく。
「プルちゃんっ……!」
「ショウ、あぶないよ!」
「でも……!」
 ショウは炎を上げる夢の亡骸を見つめて悲嘆にくれた。
 彼らのような人たちから、プルたちを守ると誓ったのに。
(戦イ……殺シ合イ…… デモ、死ヌノハヨクナイ…… 戦エナイ……
 ……理解不能…… ……理解不能……)
 コンピュータの声がコックピットに響いていく。それに答える気力さえショウには湧いてこなかった。
「ショウ……大丈夫ぅ?」
 沈めていた頭を、プルの優しい声のほうに向ける。それを一目見たショウは、今までの澱んだ気分が吹き飛んでしまった。プルはまだ、お風呂から飛び出した格好のままだったのである。
「ぷっ、ぷるちゃん、あっ、わわ……!?」
「や、やだ、ショウのエッチー!!」
「そっ、そういうことじゃなくてっ、その、は、早く服をっ……!」
 あわてて、ショウは通信を切ってプルの体をモニターから消した。
(プル…… ハダカ…… 可愛イ……)
「ちょっとぉ!?ヘンなこと言わないでよぉ〜?」
 機械の声にまで真っ赤になってうろたえてしまう。
(可愛イ…… 好キ…… 守ル、ゼッタイ……
 好キ…… プル……好キ……)
「や、やめてよ、恥ずかしいよ……!」
(好キ…… 恥ズカシイ事……? 素敵ナ事……? 大切ナ事……?
 ……理解不能……)
 そして、機械は静寂に戻った。
「え……?
 ねぇ……ガンダム……?」
(人間ノ感情…… 理解不能……)
 そのときからSガンダムの声は、理解不能という言葉だけを繰り返すようになった。ショウの呼びかけに応じる事もなく、旅の終点であるダカールに到着するまでその反応は変わる事はなかった。

 ダカールに到着したガンダムチームには、作戦以上に重大な目的があった。ネオ・ジオンに囚われているジュドーの妹リィナを救い出すことである。
「ジュドー!そろそろアーガマとの合流の時間だよ!」
「よーしっ!作戦開始だ!」
「あ、いる……リィナ、あっちにいるよ!」
 プルが感応したままに行動したのは、まだ作戦の段取りを決める前の事だった。キュベレイを乗せているメガライダーのメガ粒子砲を遠慮なく迎賓館近くに叩きこむ。敵は突然の強襲に混乱したが、予定外の事態に驚いたのは味方も同じである。
「ちょっと!攻撃を仕掛けるのが早かったんじゃないの!?アーガマはまだ来てないじゃない!」
「仕方ないだろ!プルがやっちゃったんだから!」
 予定ではアーガマやカラバの部隊が到着してから、迎賓館をはさんで彼らとは反対側にあるガチャベースからの部隊と一斉攻撃することになっていた。もはやタイミングを計る間もなく、防衛の敵モビルスーツは目の前に迫って来る。
「今はそんな事を言ってる場合じゃないだろ!
 リィナ……リィナがいるのか!?」
「いるよ!迎賓館のところ!」
「迎賓館だって!?サダラーンがいるじゃないか!?なんだってあんな所に!!」
 ジュドーはZZを飛ばして、一気にサダラーンに肉薄する。それを見たクレアは頭を抱えた。
 敵陣の真っ只中のジュドーは明らかに無謀である。かといって強行してたどり着けるような防衛陣でもない。
「ジュドー!それはいくらなんでも無理っ!逃げてってばぁ!」
「逃げろって、どこに!」
「海に向かって!私たちもそっちに行くから!」
 敵に聞こえるのもかまわない通信であった。それだけに常識とは逆に、ガチャベースと離れる方向に脱出経路を求めた。
 ガチャベースに向かって逃げろと言えば、重圧はそちらにかかってしまう。これはクレアの直感だった。普段同じような悩みをユリウスが抱えていることには無頓着だったが。
「ショウ、プル!オールレンジ攻撃ならぎりぎりズサの射程外から撃てる!他は撃ちながら海のほうへ移動っ!」
 正面にいきなり出てきたズサを倒してしまえば、逃げながら少しずつ相手にしていけば大丈夫だと考えた。残った問題はベース・ジャバーに乗った3機ぐらいである。
「あれは私が相手すればいいか。ゲタに乗った機体がミノフスキークラフトに勝てるはずがないっ!」
 飛び立つクレアを見送りながら、ショウはSガンダムに呼びかける。
「インコム……あっちだよ、行けっ!」
 心の中にインコムが飛び出すイメージが浮かぶ。ズサが反撃のミサイルを撃つが、それをひとつひとつ回避させていく。
 ふと、プルと一緒にいるのだという感覚が伝わってくる。インコムの横をファンネルが追い抜いていくのが感じられた。
(いくよ!)
(うんっ!)
 二人の放ったビームがズサを貫いていく。初めてサイコミュを使ってみたが、考えていたよりもずっと自然に扱う事ができた。
 そして、突然見知らぬ光景が頭に浮かんだ。ショウが、どこか別の宇宙で、知らない機体に乗って戦っている。目の前に悪意を宿した黒いガンダムが二機。そのとき……やはり、プルがすぐ側にいてくれるのだ。そんなことはありえない状況なのに。
「な、なにっ?今の……!?」
(フェニックス…… 不死鳥、永遠ノ命……)
 Sガンダムは不思議な答えを返した。だが、深く追求している時間はショウにはない。瞬時にインコムを再出撃させ、ズサ隊を沈黙させていく。
 慣れていくにつれて思考が鮮明になる。戦場に渦巻く様々な意思が読み取っていける。
 ショウたちへの敵意。襲い掛かる死への恐怖。砂漠の戦士たちと同じ歪んだ夢。
 ハマーンのプレッシャーも感じる。インコムの攻撃をそちらに向けてしまいそうだ。ジュドーの叫びも、彼を慕うリィナの祈りも聞こえてくる。
 しかし……ショウはそのどれよりも、プルと一緒にいられる安心感を強く感じていた。
「ショウ、あっち!グレミーがいるよ〜?」
 クスィーガンダムを囲む三機のモビルスーツのひとつに、大気圏突入の際に見たバウの姿があった。
「あいつは……!」
 二人は戦意を向けるが、クレアは三機を相手に優勢に戦いを進めていた。
「来なくていいよっ!自分の前の敵を撃つんだっ!」
 襲い掛かるビームやマシンガンの弾を避けながらクレアは叫んだ。ただ、避けているだけで知覚が鋭敏になっていく。ビームライフルを構えてさえいない。
「撃たないんですか!?」
「動く相手と間合いを計ってる!必殺技の練習だよっ!」
(必殺技…… Gガンダム…… 理解不能……)
 Sガンダムはクレアへの注意をやめさせた。なんとなくショウもそれがいいと悟った。

「あっちはどうなってるんですか!?」
『撃墜はされていないようです!こちらと反対側に移動していきます!』
 マリアの返事に、ユリウスは舌打ちした。援軍が来る事は期待できない。
 突然の攻撃に慌てて飛び出してみればすでにガチャベースは包囲され、ズサの一斉射撃を受けて少なからぬ損害を受けてしまった。
 それを倒しても、上空からベース・ジャバーに乗ったドライセンの部隊が近づいてくるのが分かっている。
 こんな時だというのに、ユリウスたちの機体の弾数は多くなかった。敵を殲滅させて補給のために着艦すれば、どうしてもドライセンと戦う者がいなくなってしまう。
「これだけは使いたくなかったんですが……。あれを出すしかないようですね……!」
 ユリウスの瞳の端が妖しく輝いた。

 そして、ネオ・ジオンの陣営は驚愕と恐怖で大混乱に陥った。
「……あれは!」
「サ……!?」
「サイコロガンダムだとっ!?いかん、サダラーン緊急退避させよ!」
 ハマーンの号令の直後に、拡散メガ粒子砲の嵐が戦艦を覆い尽くしていく。
 さらに、混乱したのは敵だけではない。
「リィナ……!サダラーンにはリィナがいるんだぞ!誰がサイコロなんか使うんだよっ!」
 包囲を突破して合流したジュドーは、妹の運命を案じてZZを急転回させた。
「やめろ──っ!!」
 ジュドーの叫びも、ZZガンダムも、まだサダラーンには届かない。
 ショウとプルも、サダラーンを守る最後のモビルスーツ隊を倒しながら近づいていく。
「シスちゃんなの!?やめて、そこには……!」
(戦ウ…… 人ガ、死ヌ…… 良クナイ……
 人間ノ、感情……)
「理解できないんなら黙っててよっ!」
 そう言った瞬間、Sガンダムの動きが停止する。計器の光が落ちていく。人が目を閉じて、何か考え込むように。
 だが、モニターが外の光景を映さなくなっても、ショウにはそれがありありと分かった。
 ジュドーの絶叫が聞こえる。プルが泣き出すのが分かる。
「……馬鹿っ!!」
 ショウは反応を示さなくなったコンソールパネルを両手で殴りつけた。
「どうしてっ……!どうしてっ……!
 ガンダムっ!おまえは人殺ししかできないのか──っ!!」
(…………)
 かすかに反応があった気がした。そして、機体に再び光が灯された。
 しかし……戦闘は、すでに終わってしまっていた。

「なんでサイコロを出したんだよっ!」
「出すしかなかったんですよ、あの場合は!」
 帰るなり怒りをあらわにするショウに、アルビオンにいた者たちは口々になだめていった。確かに苦戦だったのだ。
 ショウは感情のやり場がないまま、足早に自室に戻って行った。
 エリスはそれを見送りながら、深いため息をついた。
「やっぱり私、残った方が良かったかなぁ?」
 珍しく神妙な顔のクレアに、首を横に振る事で答えた。たとえ今日何事もなかったとしても、運命の瞬間は次に訪れるのだから。
 エルピー・プルの死が間近に迫っている事を、まだショウもプルも知る事はできなかった。


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