第四十四話 エルフリーデの瞳
〜流血のシナリオ〜
モビルスーツの一隊を率いるガンダムの少年は、戦場で出会った者たちを喜んで迎え入れた。それぞれが孤独だと思っていた者たちが集まり、この戦いは誰にも認めてもらえないものではないと、心を束ねて強くしていく。
幸いなことに、少年の一人は地球上に拠点を持っていた。また、資金があり、食料がある。戦いを続けるためにはなくてはならないものばかりである。
ショウたちは彼に同行することに決めた。今までの軍事作戦とは違い、普段から堂々としているわけにはいかない。一撃を加え、潜伏し、次の指令を待つまでの間は、子供たちだけでいるよりは大人を頼った方が安全だ。
「僕は、カトル・ラバーバ・ウィナー。よろしく」
短く刈り揃えられた金髪の下の微笑みは、これまでに見てきたどの戦士たちのものよりも和やかで柔らかい。恐らく、本当は戦うべき人ではないのだろう。
ショウたちも順に名を答えて、手を握っていく。だが、重火器の塊のようなガンダムを駆る少年は硬い態度を崩さなかった。長く伸びた前髪が目を引くが、彼の冷静な表情はあたかも仮面のような印象を周囲に与えていた。
名前なんかない。
その短い答えが彼の全てを現していた。戦場に一人で立つ者は、帰る場所も逃げるという選択もない。失敗すれば死があるだけだ。ならば、他者の心の中に、自分という痕跡を残す必要はない。その覚悟が彼にその言葉を語らせていた。
「どうしても呼びたければトロワだ。トロワ・バートンとでも呼んでくれ」
情を交わせば、失う辛さが生まれる。それが己の死を導く可能性になる。それは機械に操られた強化人間や、人間性を見失った邪悪な者の思考ではない……完成された戦士のものだった。
そんな張りつめた空気を、楽器の音が解きほぐした。
カトルの手にあるバイオリンの音色は、邸宅の一室から軽やかに流れ出し、優雅なメロディラインで戦士たちの心に彩りを添えていく。楽譜も、あらかじめ決められた形もない即興の音の流れを一度止めると、カトルは一同を見回し、微笑む。
先に静寂をもたらしたトロワがそれに応えた。棚に並べられたフルートを手に取り、カトルの曲に合わせて、別の音色を奏でていく。伴奏者となって受け取るカトルも、嬉しそうに弦を引いていった。この音色がトロワの心の中を映したものであるなら、彼の中には優雅で温かい心があるのだから。
カトルに従うマグアナック隊が地下基地に運び込まれたモビルスーツを整備していく。その間ショウたちが案内された屋敷は、貴族の邸宅を思わせる豪華絢爛な内装であった。
「本当に、整備のお手伝いをしなくてもいいのでありますか?」
ミンミがブッド・キャリアーに乗ってきたのは、そのためだった。しかし、カトルはミンミの頭を優しく撫でて、大人に任せてくれればいいと答えた。
ミンミはなんとなく申し訳なさそうな顔をしたが、カチュアは大喜びだ。
「お兄ちゃんのおうちって、お城みたいなのね★ お兄ちゃんって王子さまなの〜?」
「砂漠なのに、こんなに水があるなんて……」
ショウも目の前にあるものが信じられなかった。地下工場をカモフラージュするように、邸宅の中には大きなプールが備え付けられていたのである。以前砂漠越えの作戦をしたことがあったが、その時はいつも水に苦労していたものだった。手に入れることは難しく、なくなれば死に直結する。これほどの水を一人占めにできるなら、エルピー・プルはさぞ喜んだことだろう。
「いいよ、泳いでいっても?」
カトルは何でもないことのように笑った。カチュアがすぐに頷き、ミンミが後に続いていく。
「ウィナー家は資産家だと聞いてはいましたけど…… これでは目立ちすぎませんか?」
「目立つからいいんだよ。誰も、プールの下にモビルスーツの工場があるなんて思わないからね」
ユリウスは反論したくなったが、すぐに深く考えるのはやめた。大富豪という人達は、えてしてとんでもないことを平気でやってしまうものだ。そう思うことにすると、カチュアの後を追ってプールに足を運ぶ。いつも通り黙っているシスの手をショウが握り、先導するように連れて行く。それを後ろで眺めるカトルは微笑み、トロワは表情を変えることなく、静かに腕を組んでいた。
ばっしゃあああん!
「きゃはっ、冷たいのでありますー!」
「あはは、私も負けないよ〜★」
豪快な音をあげて水しぶきが飛び、ミンミとカチュアは互いの顔に両手で水を投げかける。
シスは水遊びではしゃいでいる二人から少し離れて、プールの水面を眺めてまごついていた。
「早く早くぅ〜! 一緒に水かけっこしようよー?」
カチュアが水の中から呼びかけるが、シスは口籠もったまま動こうとしない。
「……どうしたの?」
シスはうつむいて、小さな声で返事をした。
彼女はプールに入るという経験をしたことが一度もなかったのだ。お風呂に入るのと同じだよとカチュアは笑った。
子供用のプールはカチュアたちが立っても肩が水面の上に出る程度の水深で、シスが入っても溺れるようなことはない。言われればシスもそれは分かる。
「私…… 一人で入ったこと、ないから……」
今までは、お風呂に入ることさえ、いつもエリスが面倒を見ていてくれた。ブッド・キャリアーの中のシャワーはどうにか一人でもできたが、水中に体を入れるのは怖さが先に立ってしまう。
「なら、私が支えててあげるよ★」
カチュアは両手を広げて、迎え入れるようにシスを見上げた。
シスはつばを飲み込み、おそるおそる歩を進め、片足ずつ水面に沈めていく。プールの縁に座る格好になると、そこでもう一度動作が止まる。
「シスちゃん、大丈夫だよ」
ショウが肩に手をかけ、体を支えながらゆっくりと前に倒していく。シスは意を決して目を閉じた。そして腰を浮かせて、勢いよく前方に向けて倒れ込んだ。
「…………!」
体制が崩れたまま、一気に顔まで水の中に入ってしまう。息ができない。耳の中に水が入ってくる……
そのとき、沈んでいく体を誰かの腕が抱きとめた。体の向きがゆっくりと直立の姿勢に戻っていく。顔が水面から上に出て、咳き込みながら呼吸を取り戻す。
顔の表面を手でぬぐい、ようやく目を開けることができた。
「もうっ、静かに入ってきてよ〜?倒れてくるなんて思わなかったわよ」
すぐ側にカチュアの顔が見えた。慌てて謝ると、カチュアはおかしそうに笑った。
「それじゃ、一緒に泳ぐ練習しようよ。最初はバタ足からねー★」
「う、うん……」
バタ足という単語を聞くのも初めてのことだと言い出すのに、もう少し時間と勇気が必要だった。
そんな様子を眺めながら、ユリウスはプールサイドのチェアに体を横たえ、これからのことを考えながらも不思議な安心感を味わっていた。
この時代はニュータイプが世界の希望のように扱われてはいない。ガンダムファイターのような化け物もいない。
数の不利を物ともしない力量のパイロットや、圧倒的な技術格差を持つガンダムこそあるものの……ここには超人たちは存在しない。ただそれだけのことで、ユリウスは安堵感のようなものさえ感じていた。ようやく指揮や作戦がものをいう戦場になってきたと思うと、自然に口元が緩んでしまう。ニュータイプ同士の一騎打ちや、間違ってもガンダムファイトなどという例外中の例外が支配する戦場ではないというのは、ユリウスにとっては福音でさえあった。
ショウも交えて遊んでいる子供たちの中に、カトルも加わっていく。シスの体を支えて泳ぐ練習を手伝いながら、カトルはショウたちに語りかけた。
「君たちは…… 宇宙の心に触れたことはある?」
ショウたちは一様に顔を見合わせる。しかし返す言葉もなく、カトルの顔を見上げて続きを待った。
「宇宙の心が、僕に教えてくれるんだ。君たちと一緒に戦っていかなくちゃいけないって……」
お兄ちゃんもニュータイプなの、とカチュアが問いかける。カトルはそれを笑顔で受け流した。
そのやりとりを聞いていたユリウスは、強く目を閉じて溜息をついた。どうやら、ここにも奇人変人はいるものらしい。
そうなると、先の期待も砕かれる可能性は大いにある。この時代で完成を見る戦闘能力強化システムの頂点の一つは、ニュータイプと競わせた場合にどちらが優れた結果を出すのか予想できないほどの力を持っている。戦術も作戦も、その力の前では意味を為すこともなく吹き飛ばされてしまうかもしれない。
カチュアたちと水遊びを楽しむシスを横目で見つめて、ユリウスは期待と憂いが混ざった、複雑な表情になった。
プールサイドの反対側で、トロワはそんな姿を静かに見守っていた。一緒に楽しもうとカトルに呼びかけられたが、彼は興味もなさそうにその場を去った。トロワの居場所は、常に戦場だからだ。
地球圏統一連合内部に存在する秘密結社OZの司令部は、一見して軍事組織の中枢とは思えない豪奢な調度品で飾られていた。カトルの邸宅が富豪の雰囲気ならば、そこは貴族のたたずまいである。
しかし、そこに人があり、彼が執務を行う間は、部屋の空気は一変した。内装に無意味な浪費をしたようには見えず、機能的という言葉さえ想起させる。その部屋を使う者の気品溢れる空間では、華美な意匠も背景に過ぎない。
名を呼ばれ、入室を許された若い士官は、高貴にして優雅な微笑を浮かべるOZ総帥を前に緊張を隠すことができなかった。
連合の首脳が一堂に会する重大な会議を目前にした時期である。ガンダムが地上の軍事施設を次々に襲っている状況下では、その防衛は困難を極めるであろう。士官は総帥直々の指令に心を馳せ、直立不動のまま真剣な眼差しを向ける。
「楽にして構わない。特尉にはニューエドワーズでの会議中、私の身辺警護に当たってもらいたい」
士官は固い表情のまま指令を受けた。その表情が和らがなかったことで、トレーズ・クシュリナーダは彼女の心中を慮った。
美男子と見紛う凛々しい女性は、モビルスーツのパイロットである。連合がコロニーを制圧する際に大きな戦果を挙げ、内外に名を知られたエースパイロットの一人であった。彼らはその功績を讃えられ、それぞれ重要な地位と任務を授かっている。
雷光の伯爵ゼクス・マーキス特佐の名を知らぬ者はない。彼はトレーズ総帥の腹心として公私に渡って信頼厚く、総帥と並んで全ての将兵の憧れの視線を受ける英雄である。
暗黒の破壊将軍と敵味方に恐れられたヴァルダー・ファーキルは宇宙に遊軍を預かり、半ば独立した兵力を構築している。トレーズに比肩する将帥として陰謀を巡らせ、一部には反旗を翻す兆候さえも見られる危険な人物だ。
蒼炎の王女シャロン・キャンベルは奔放にして華麗、そして被害を出すことを楽しんでいるかのような戦いぶりが際立つ、妙齢の美女である。撃墜数に比べて撃ち込まれる銃弾の数が群を抜いて多く、動力部を一撃で潰して終わらせるような戦い方は決して行わない。一機一機を入念に追いつめ、細部に至るまで粉砕する。エースパイロットの一人とはいえ、要人防衛に適した性格の持ち主ではない。
そして、防衛隊の指揮官という大任は、エルフリーデ・シュルツ特尉に与えられることはなかった。
「ゼクスにはナイロビ基地を任せてある」
トレーズは続けた。エルフリーデの表情が、無念を押し殺した固いものから、軽い疑問を浮かべた顔つきに変化する。
ガンダムが来襲する際に防衛隊の指揮を執るのはOZの誇る最高の戦士たちでなければならない。それに相応しい者がゼクスであることはエルフリーデも承知していた。しかし、その立場が自身に回ってくるという幸運も、トレーズ直々の通達という事態を迎えてわずかに期待は抱いていた。名だたるエースパイロットたちの中で、彼女一人が特尉という一段下の立場にある。あってはならないことだが、羨望の念と手柄への渇望は消し去ることはできない。
エルフリーデがそう思っていると、トレーズは熟知していた。
ゼクスに差を広げられるわけではないと諭されると、冷静な思考が戻る。ゼクスを本営に配置せずにどこで何をさせるのか……その疑問を口にすれば、やはり彼の手柄が気になるのかとトレーズに思われてしまう。エルフリーデは、それは止めておいた。次の疑問は、先にトレーズが答えた。
「防衛の指揮はキャンベル特佐でもない。心配はいらない。
……シュルツ特尉、君は私と同じところで、敵の姿を良く見て欲しいのだ」
「敵……。それは、ガンダムのことでしょうか」
トレーズは満足した笑みをたたえて、肯いた。エルフリーデの心にあった不満も疑念も消え失せたことだろう。彼女はこれから、対ガンダムの最前線に立つことになる。ニューエドワーズは始まりに過ぎないのだ。
目標となる地点にたどり着いたショウ達が最初に見た物は、火線と噴煙の応酬だった。
「戦闘が、もう始まっている?」
「これだけの規模で情報が流れているのですから、各地のガンダムは全て集まってきてもおかしくはないでしょうね」
後方のブッド・キャリアーの中から戦況を確認しつつ、ユリウスはカトルに答えた。
OZの首脳部が集結するという情報を元に、彼らはこのニューエドワーズ基地の襲撃を決定した。情報の頻度の高さを考えれば、他のガンダムもこの情報を手にして同じ結論に達するのも不思議ではなかった。一度は別れたトロワのガンダムヘビーアームズも合流し、援護の口火を切ろうとしている。
「トロワ、あの二機は僕たちとそっくりじゃないか? まさか……あれも?」
視線の先にはガンダムが二機、重囲を破ることができずに立ち往生していた。その機体がどういうものか、データだけはユリウスも知っている。
モビルスーツ用が携行する武器としては異常なまでの破壊力を持ち、そのために装弾数は非常に限られているバスターライフルを切り札とするウィングガンダム。飛行形態に変形が可能で、大火力の主砲を活かした一撃離脱を得意とする機体である。
その横にいる黒い機体は、隠密性の高さが持ち味のガンダムデスサイズである。ハイパージャマーシステムで敵に発見されることなく忍び寄り、ビームサイズで一撃の下に敵を葬る。
だが、圧倒的な物量は彼らの機体の長所を殺していた。バスターライフルはすでに使い切ってしまったのか、ウィングガンダムはビームサーベルと盾を構えている。接近戦に主眼を置いたガンダムデスサイズは、多数の弾幕を前にして砲撃戦ができる機体ではない。
「何であろうと、邪魔ならば戦う……」
まだ、この二機が味方だという確証はない。トロワは迷うことなく、ヘビーアームズの両肩からミサイルを放った。
「ミサイル? ……味方ごとかよ!?」
「……密集などしているからだ」
デスサイズからの悲鳴を聞き流し、リーオーの部隊にマシンガンを掃射していく。フィン・ファンネルが飛び、ヒートショーテルが複数の敵機を同時に両断していく。倍加した火力で連合の部隊を押しながら、ショウはもう一機いるはずの味方を探し求めた。二手に分かれて出発した、もう一体のガンダムが参加してきていない。
「クレアさん達は来てないのかな……」
「ペーネロペーなら見る前から分かるんですけどね」
ユリウスの見ている管制用のモニターにも、白銀の怪獣の姿はない。だが、そこに予期せぬ声が舞い込んだ。
「おい、クレアって言ったな!ひょっとしてクレア・ヒースローのことかよ!?
エリスと、レイチェルと一緒にいた!」
デスサイズからの声は、ミサイルを撃ち込まれたときと変わらぬ口調である。
「クレアさんたちと会ったんですね?」
「俺たち必死にまいたんだよ、あいつらといると目立ちすぎるから!
……ったく、ヒイロの世話だけでもやんなっちまうってのに!」
ショウとユリウスは、同時にごめんなさいと謝っておいた。向こうで何があったのかは想像さえできない。
そこに、いささか怒気をはらんだ声が割り込む。ウィングのパイロット、ヒイロと呼ばれた少年からだ。
「本当に分かっているのか?今度の任務の重さを……。
今までとは違う……OZという組織の頭を叩き潰すんだ」
ヒイロは機体の向きを敵陣に向けると、翼のバーニアを噴かせて突撃していく。
「援護するよ!砲台が一緒に飛んでいくから!」
「……了解」
短い一言だった。それだけの合図で、ヒイロはウィングの突撃とフィン・ファンネルの速さを同期させ、一人のパイロットが操っているかのようにビームの斉射と斬撃を連携させていく。そのヒイロから、ニュータイプ的な感覚は感じ取ることはできない。だからこそ、この動きを初見でこなしてしまうヒイロの技量には感嘆せざるを得ない。
ヒイロの視界に、飛び立とうとするシャトルが入った。機体に描かれたOZの徽章を見逃すことはなかった。
「……あれだ!」
機体を飛行形態に変形させると、フィン・ファンネルも引き離す速さで宙に飛び立つ。瞬時にシャトルに追いすがると、空中で再度ガンダムの姿に戻して剣を抜く。戦闘用でもないシャトルを切り裂くのは、あまりにも容易い作業であった。
「任務……完了……!」
爆音を残して地に降り立つヒイロの端正な顔に、わずかに笑みが浮かんだ。
だが、その笑みは一陣の業炎によってかき消された。
「貴様ら、まだ無意味な戦いに飽き足らないのか!」
後方から出現したのは、さらに新たなガンダムだった。薙刀を携え、長く伸びた多関節の腕から火炎を放つ姿は、どこかサイ・サイシーの使っていたドラゴンガンダムを想起させる。
その後に降下した大型の機体は、普段なら真っ先に戦場に姿を見せているはずのペーネロペーだった。久しぶりに聞くクレアの声は、いつもの明るい口調ではない。
「ダメだよ、みんな!これは全部OZの罠だったのよ!?」
「連合の広報回線を開いてみろ!貴様らは連合の平和論者を一掃してしまったんだ!」
新たな一機……シェンロンガンダムのコックピットを開き、現れた張五飛は冷徹な目を一同に向ける。彼の言葉通り、連合の将軍が怒気をはらんで将兵の志気を鼓舞していた。
『これはコロニー側の宣戦布告である!我々は本日、コロニー側との和平を論じていた!
その中心と言うべきノベンタ元帥は、もうこの世にいない。コロニー側の侵略モビルスーツに殺されたのだ!』
「全てはOZの企みだった…… 踊らされたのだ、トレーズ・クシュリナーダの手の中で!」
ここに至って、ようやくショウ達も真相を悟った。彼らが撃ったのはOZではなく、彼らに反対する連合穏健派の者たちだったのだ。時を同じくしてゼクスらが率いる部隊が立ち上がり、首脳部を失った連合は各地で敗走を続けている。ガンダムたちは、OZが連合に代って地球圏を掌握するクーデターに利用されたのである。
「ユーリィ、なにやってたのよ、あんたがいて!?デュオも、ヒイロも!」
クレアの声にユリウスは言い返すこともできず、しばし呆然としてしまった。カトルと一緒に行動していたことで、決定を任せきりにしていたからか。だが、それよりもまず、安心感から来る油断があったのだろう。
そしてユリウス以上に、ヒイロ・ユイは肩を震わせ、彼に似つかわしくはない呪いのような呟きを漏らしていた。
「俺の……俺の、ミスだ……!」
襲撃から離脱したシャトルの中で、トレーズは目を閉じて語りかけた。傍目からはくつろいでいる姿にも見えるが、彼の瞳の奥を覗くことは誰にもできない。
「シュルツ特尉……どうだったかな、ガンダムの戦いぶりは」
「率直に表現するのであれば、鬼神のようです」
エルフリーデの返答に、トレーズは様々な思いを巡らせた。そして、その思想の一端を、いまだ特佐という地位に立てない戦士に見せていく。
「彼らは、我々に対する審判を下しにやってきたのだ。彼らの戦いぶりは、そのままコロニー市民の怒りを代弁していると言っていい。
彼らの怒りを受け止め、それに恥じぬ戦いを示さねばならない。それがこれからのOZの戦い方になる……」
エルフリーデの表情は、やはり緊張感が前面に出ていた。
シャトルの後部で、演説を終えたセプテム将軍をレディ・アン特佐が葬り去るのが見えた。彼もまた、新しい時代に生き残る人物ではなかった。
「第二幕が始まった……忙しくなる」
トレーズは未来に思いを馳せ、優雅な笑みを口元に浮かべた。
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