【影武者】 ファミコンでウィザードリィが発売された時、その名も「ファミコン必勝本」という名の雑誌があった。 ファミリーコンピュータマガジン、マル勝ファミコン、ファミコン通信などと並んでいた時は区別できる名前だったが 今見ると一般名詞のような名前である。 略称は「ヒッポン」、後にスーパーファミコンの時代が到来すると「ヒッポンスーパー」と名を変える事になった。 この雑誌に掲載されていたウィザードリィの小説には多大な影響を受けたものだ。 その特徴は、現実に考えたらおかしいことだがゲーム内では実際に起き、攻略の一部となっている現象は そのまま迷宮世界での真実だとして描いている事である。 たとえば、最終ボスのワードナとは「一度倒した事がある冒険者は戦う事ができない」が、 「まだ倒した事がない冒険者は何度も戦う事ができ」、「クリアアイテムの魔除けを複数存在させることができる」。 このゲーム内での怪現象・テクニックにひとまずの見解を示したうえで、冒険者たちに求められた本当の目的は 「用意されたシナリオをクリアする事」ではなく「果てしなくレベルアップを続ける事」だと結論付けた。 これは、シナリオをクリアした後になっても(本来のストーリーでは何の意味もないはずの) レベル上げとアイテム集めを未来永劫続けるプレイヤーたちへの肯定論であり、 プレイヤーそれぞれが描く物語がゲーム内の公式ストーリーよりも価値あるものだと示してくれた。 これが、たとえばドラゴンクエスト3の小説で、 「勇者ロトの称号を手にした勇者が翌朝にはルーラでアリアハンに戻る事ができる」とはっきり言い切られ、 大魔王ゾーマも元気に復活しており、変化の杖を2回取ってくる裏技の内容が明文化され、 雷神の剣を奪うために大魔人狩りをやっている……という設定だったらどうなっていただろう? ※1 こんな展開はウィザードリィだけが許され、ウィザードリィのプレイヤーだけが楽しむ事ができる聖域なのだ。 それが頭にも心にも焼き付いてしまった一人としては、このシナリオのストーリーは心に深く染み入るものだ。 迷宮世界に生きる人たちの目的は世界の平和でも魔族の討伐でもなく、ただ「戦って強くなる」だけなのだ。 それこそがウィザードリィの聖なる世界なのである。 ※2 ゲーム本編の解説に移る。 「千里眼」「影武者」共通の元シナリオである「剣王の反旗」で最強の剣士であったニパダス氏が急死したため、 「千里眼」ではニパダスの死を確認するためのアイテムを求めて旅立ち、 「影武者」はニパダスを甦らせるためのアイテムを求めて出発するという逆転の筋書き。 アイテムは「千里眼」と共通したものや対になるものが多く、 どの職業が有効なのかは「千里眼」をプレイしていればおおむね予想が付く。 ※3 クロスオーバー設定の楽しいところだ。 これまでもフロアの内容では高レベルの作品を作り続けてきた人の作品だが、 今回は地下1階からいきなり大型イベントが連発。 まだディオスの回数も心許ないうちから手に汗握る展開で、一歩一歩進んでいくのが本当に楽しい。 間違いなく、これまで遊んできたシナリオでは最も濃密な地下一階だ。 普通なら2〜3フロアぶんのイベントが詰め込まれている。 その後も個性的なフロアが続出していく。 さすがに同じ人の作品で使われ続けたネタもあるが、その完成度は最も高い。 他の作品で不満に思った部分が解消されていたり、以前より快適に進む事ができるものばかり。 そして、厳しい場面での攻略法を考え、力でなく技で進む事ができるのは目から鱗が落ちる。 基本的に力でねじ伏せるウィザードリィのシステムでは難しいはずの 「頭を使った攻略」「弱点を突く戦い」を見事に実現させているのは素晴らしい。 パーティーの命運を握る攻撃魔法がマダルトでもティルトウェイトではなく、あのリトカンという場面が出てくるのだ。 「一生使う事はないだろう」の名フレーズが似合う魔法であるのに! ※4 恒例の最終フロアの難易度は、この作者が作り出してきた歴代シナリオでも最高の難易度を持つ。 手書きマッピングが大好きな人ならこれは燃えるだろう。 あらゆるマスに足を踏み入れ、あらゆる壁(とおぼしき空間)に体当たりをかけ、 視覚は全く信用せずに自作の地図だけを見て踏破するあの喜び。 そして「いっそ全部透明の壁だった方がまだマシ」というぐらいに複雑な地図を暗記して 手書き地図すら使わずラスボスの部屋に乗り込んだ時のあの達成感! オートマッピングを完成させるのは「地図を埋め終わる」作業だが この迷宮を突破するのは「迷路を制圧する」戦いだ。 作業を済ませるのと戦いに勝利するのは感動の度合いが全く違う。 オートマッピング世代の人であっても、これまで同じ作者が作ってきたシナリオは 最終フロアは手書きマッピングをさせられるため、慣れてきていることだろう。 これはぜひとも挑戦し、そして勝利の喜びを味わう人が一人でも多く現れて欲しい。 その後に待っている強敵も、心の底からその生き様に共感し、感銘を受け、 それでいて彼を殺すのに何のためらいも覚えず、むしろ清々しいまでの殺し合いを堪能できる。 殺し、殺され合い、しかしキャンプを解けば彼はまた現れる。カドルトを唱えればこちらはまた立ち上がる。 この展開を陰惨なものではなく聖なる儀式として捉えられるのは、 最初に述べた「戦い続ける事がウィザードリィ世界の真実の境地」という考え方が染みついていたからだろう。 だが、最終フロアの戦闘はうんざりしてくるかもしれない。 とにかくアイテム破壊攻撃が厳しく、アイテム破壊を防止する手段がないために せっかく手に入れた貴重な武器や鎧があっというまになくなっていく。 ランダムでいくらでも手に入るとはいえ、こればかりは勘弁して欲しかった。 経験点は多く戦闘は単調だがアイテムを全く落とさない敵、 貴重なアイテムを出してくれるが経験点がとんでもなく低い敵、 転職アイテム(このアイデアがまた秀逸)を落としてくれるが他のアイテムも経験点も全く期待できない敵、 普通に戦える敵、 その中に混ざっている超レア敵、 ……と、ただ漠然と戦うわけにもいかず、それでいて目的を決めている時は稼ぐのに便利な連中が相手をしてくれるという ※5 楽しい迷宮世界であるのだが、せめて破壊防止アイテムが存在してくれれば……。 ※1 ゲームブックでのドラクエ2では、あの「破壊の剣+隼の剣」が可能らしい。よくぞやってくれたものだ。 ※2 「階級別格闘大会」はさらに割り切っている。    割り切りすぎて感動や余韻こそないものの、あちらもまたウィザードリィの真なる世界。    こちらが戦士たちの楽園アヴァロンとすれば、あちらは修羅界のようなものだ。    どちらもウィザードリィの魂たちには望むところである。平和な楽園など必要ない。寝床など馬小屋で十分だ。 ※3 ちなみに、「千里眼」に村正とエクスカリバーが、「影武者」に村正と聖なる鎧と手裏剣がある。    知らずにパーティーを組むと一大事だ。 ※4 ソピックの薬の説明文。さすがに今作でも一生使う事はないだろう。 ※5 この文章を書いた時はそうだったのだが、10/27のバージョンにしてみたら大ボスがレアアイテムを出さなくなり、    経験値稼ぎに便利な中ボスがランダムで出るようになったために、普通に稼ぐしかなくなった。    転職アイテムで急速にレベルアップするのは健在だが、そちらではアイテムがまるで手に入らない。